
カープ 5 – 7 阪神(延長10回)
あの9回が始まるまで、きょうはもらった試合だと思っていた。
3点リード。秋山と佐々木の一発で突き放した8回裏のあと雨に打たれながらも
マツダスタジアムのスタンドにはようやく安堵の空気が広がりかけていた。
開幕3連勝のあとヤクルトに2連敗阪神にも前日完敗とカープはすでに3連敗中。
4月に入ってからまだ白星がない。しかも阪神には昨季から数えて7連敗という因縁がのしかかる。
きょう負ければ4連敗で借金生活に転落する。天気予報は終日雨。
朝からどんよりと垂れ込めた雲がまるでいまのチーム状態を映し出しているようだった。
試合開始は雨で1時間遅延。15時にようやくプレーボールがかかったマツダスタジアムにはそれでも3万1414人が詰めかけた。
傘を差しながら、赤いカッパを着ながらこの雨を振り払うような勝利を信じて。
相手先発は天敵・大竹耕太郎。左腕のチェンジアップにカープ打線は昨季さんざん翻弄されている。
イヤな記憶ばかりが蘇る対戦カードだった。
ターノックの粘投と打線の覚醒 雨中に灯った逆転の火
1回表、先発ターノックがいきなりつかまった。2アウトから佐藤輝明にセンター前へ運ばれ先制を許す。だけど、その裏すぐに打線が応えた。大盛がショートへの内野安打で出塁し、中村奨成が送ったあと、3番・小園がセンターへ犠牲フライ。
パシッと快音が響いたわけではないけれど、最低限の仕事で1-1の同点に戻した。
2回、再びターノックが近本に勝ち越しタイムリーを浴びて1-2。ズルズルいきそうな嫌な流れだった。でもターノックはそこから踏ん張った。
3回、4回、5回と走者を出しながらもギリギリのところで腕を振り続け追加点を許さなかった。
来日2度目の登板、93球、5回6安打2失点。数字以上の粘りがそこにはあった。
そして4回裏、カープ打線がようやく大竹を捉えた。先頭の小園がレフト前ヒットで出ると佐々木も続いてショート内野安打。
ここで坂倉がライトへはじき返す同点タイムリー。ぐわっとスタンドが揺れた。
さらにモンテロがライトへ犠牲フライを打ち上げ、3-2と逆転に成功する。
モンテロは試合後、「チャンスだったので、何とか走者を返そうという気持ちで打ちにいった。逆転につながってよかった」と語ったという。天敵・大竹から3点をもぎ取ったのだ。昨季さんざんやられた左腕を、きょうの打線は確かに攻略していた。
5回途中、雨脚が一気に強まり1時間1分の中断。3-2のリードのまま試合が止まった。
このままコールドにならないかという淡い期待を抱いたファンも多かったはずだ。
しかし雨は小降りになり試合は再開された。
6回、島内が佐藤輝明に2塁打、大山に四球と走者を溜めたものの、踏ん関って無失点。
7回はハーンが3人で片づけ、そのハーンの打席に代打で送り出された秋山がフルカウントからレフトスタンドへ今季1号のソロアーチ。ベテランの一振りで4-2。
さらに8回、先頭打者の佐々木が左中間へプロ初本塁打をたたき込んだ。5-2。3点差。
ここまで雨の中を耐え続けたファンの顔がようやくほころんだ。
中﨑が8回をゼロに抑え、あとは9回を締めるだけ。勝った、と思った。誰もがそう思った。
あの守備変更がすべてを壊した 9回の悪夢と球団への問い
9回表。新井監督がマウンドに送ったのは、今季新守護神に指名された森浦だった。ここまでは理解できる。問題はその前に行われた守備変更にあった。遊撃の小園を三塁へ。二塁の勝田を遊撃へ。そして二塁には菊池を投入。さらに捕手を坂倉から石原に交代。
一見すると「守備固め」である。だけど、この采配がほんとうに「固め」になっていたのか。
小園はこの日、7回に中野の打球をさばく好守備を見せていた。ショートとしてきょうは安定していたのだ。それを9回の、もっとも緊張する場面で三塁にコンバートする。ショートと三塁では打球の角度も、間合いも、送球の距離感もまるで違う。
かつてテレビ解説で宮本慎也氏や鳥谷敬氏が「試合途中でのポジション変更はきつい。サードとショートは似て非なるもの」と指摘していた。まさにその通りの状況だった。
森浦が先頭の木浪にレフト前ヒットを許す。続く坂本の打球は三塁前へのボテボテのゴロ。3点差。無理して併殺を取りにいく場面ではない。ひとつずつアウトを積み重ねればいい。それなのに、三塁に回ったばかりの小園がジャンピングスローで二塁へ送球し、ボールが大きくそれた。ノーアウト1、3塁。悪夢の始まりだった。
「3点リードで入って、状況判断というところかな。点差と」。試合後の新井監督の言葉は、明らかに小園のプレーを問題視していた。「もうちょっと、状況を考えてやってほしいところだったけどね」とも言った。たしかに小園のスローイングは雑だった。
WBC代表にまで選ばれた男のプレーとしては、あまりにも軽率だったと言わざるを得ない。
でもね、こんな風にも考えられるのだ。小園がショートのままだったら、あの場面は起きなかったのではないか。慣れないポジションで、しかも勝ちゲームの9回という極度の緊張下。
「ポジコロ」ポジションをコロコロ変えるこの采配は、昨季から繰り返されてきた新井カープの悪癖そのものだ。
オフに「小園はショートレギュラー」と宣言しておきながら、開幕早々にまた動かす。何のための宣言だったのか。
森浦は動揺したか福島にデッドボール。ノーアウト満塁。代打・伏見のサードゴロの間に1点を返され5-3。それでも森浦は近本を空振り三振に仕留め2アウトまでこぎつけた。中野を追い込み、カウント2-2からの8球目、チェンジアップに中野のバットが空を切った。
ゲームセット……かと思った。石原のミットからボールがこぼれた。振り逃げにはならなかったが、ファウルの判定。まだ終わっていなかった。
森浦はサインに2度首を振りチェンジアップを選んだ。低めに投じたそのボールを、中野にうまく拾われた。打球はレフト前へ。二塁走者の俊足・福島がヘッドスライディングで本塁に突っ込み、5-5。同点。マツダスタジアムが凍りついた。
ちなみに森浦の自責点はゼロである。あのエラーがなければ、3人で終わっていたイニングだった。
延長10回、マウンドには辻。1アウトから走者を出し、木浪にライトスタンドへ2ランを叩き込まれた。5-7。きょう3安打2打点の木浪は打率.579。手がつけられない男に、最後の最後にやられた。
試合が終わったあとベンチにひとり残って座り込む小園の姿が映し出された。ぼうぜんとしていた。責任を感じていたのだろう。
雨が頬を濡らしているのか、それとも別の何かなのか画面越しには判別できなかった。
問いたいのは小園だけの責任ではないということだ。なぜ昨季首位打者の本職であるショートから試合途中で三塁に動かすのか。菊池を二塁に入れたいなら、勝田を下げて菊池を二塁に入れ、小園はそのままショートでよかったはずだ。
佐々木を三塁からファーストに回してまでポジションを弄る必要がどこにあったのか。
「守備固め」の名のもとに、守備を壊してしまっている。この矛盾にベンチは気づいているのだろうか。
雨のマツダスタジアムで6時間近く応援し続けたファンの心中を想像してほしい。
3点差の9回やっと勝てると思ったあの安堵が、目の前で崩壊していく光景を。開幕3連勝のあと4連敗。阪神には昨季から8連敗。対阪神だけではない。昨季9月の大失速を経て、チーム全体に染みついた「終盤に崩れる」という体質は、何も変わっていないのではないか。
ベンチの首脳陣はいったい、どこを向いて野球をしているのだろう。選手の適性よりも、ファンの感情よりも、オーナーやフロントに見せるための「やっている感」を優先していないか。選手をコロコロ動かすことが策のように見せかけて、実は現場の信頼関係を少しずつ壊しているのではないか。
新井監督は「まだ始まったばっかりなので各自が立て直して」と語った。だけど立て直すべきはまず采配の軸のほうだ。
秋山の一発も、佐々木のプロ初アーチも、ターノックの粘投も、勝田の3安打も、島内やハーンや中﨑の無失点リレーも、すべて空砲になってしまった。
こんな試合を落としていたらほんとうに勝てるゲームがなくなる。
小園海斗には苦しい夜になっただろう。それでもあしたも試合はある。マウンドに上がるのは栗林。勝てる試合を、勝てる采配で、勝たせてやってほしい。雨の中で傘を差しながら声を枯らしたあの3万人のために。
カープ球団は誰のためにあるのか。その答えをグラウンドで示してくれる日を待っている。
【試合スタッツまとめ】
・日時:2026年4月4日(土)15:00開始(雨天により1時間遅延)
・対戦相手:阪神タイガース(セ・リーグ2回戦)
・最終スコア:カープ 5 – 7 阪神(延長10回)
・先発投手(カープ):ターノック 5回93球 6被安打 2失点(自責2)3奪三振
・先発投手(阪神):大竹耕太郎 5回74球 7被安打 3失点(自責3)2奪三振
・本塁打:【カープ】秋山1号ソロ(7回)、佐々木1号ソロ(8回)【阪神】木浪1号2ラン(10回)
・勝利投手:モレッタ(1勝0敗)・敗戦投手:辻(0勝1敗)・セーブ:ドリス(1S)
・順位(試合後):4位(3勝4敗 借金1)


