モンテロの豪快な一振りがレフトスタンドまで飛んだ瞬間、マツダスタジアムに響いたのは絶叫にも似た解放の雄叫びだった。8月12日の阪神戦で、カープはついに天敵・大竹耕太郎を9対2で粉砕し、マツダスタジアムでの9連敗という呪縛を断ち切った。
「1球前に同じ球を見て、自分のプランは同じだった。続けて同じ球がきて、自分のポイントで捉えられた」と、モンテロが語ったこの逆転3ランは、まさにカープファンが待ち続けた”復讐の一撃”だった。3回2アウト1、2塁で迎えた勝負の瞬間、2球目のファウルで左翼ポールを掠めた特大の当たりに続いて、3球目のチェンジアップをレフトスタンド最前列まで叩き込んだのだ。
大竹の武器は最高145キロのストレートと、80キロから120キロまでの幅広いチェンジアップによる緩急自在の投球術。5月31日のマツダスタジアムでは、なんと最大58キロもの球速差を使い分けて、カープ打線を手玉に取っていた。まるで野球少年を相手にするかのように、あのスローボールでタイミングをずらし続けていたあの大竹を、まさかこんな形で攻略できるとは…
モンテロの成功の裏には、カープファンが見抜いていた大竹攻略の”黄金律”があった。それは「一度攻略すると、一気に崩せるタイプのピッチャー」という分析だ。緩急に頼る投球スタイルゆえに、タイミングを合わせられると脆い一面がある。モンテロがそれを証明してくれた。
床田の男気が呼び寄せた奇跡の逆転劇
でもね、この勝利は打線だけの手柄じゃない。床田の魂のこもった投球があったからこそ生まれた逆転劇だった。3回に前川の投手強襲の適時内野安打で左太ももを直撃された時、誰もが交代を覚悟した。しかし床田は「僕は、ああいうので代わる気はない。骨が折れてなければ大丈夫ですよ」と、あっけらかんと続投を宣言したのだ。
あの場面で見せた床田の不屈の精神こそ、カープ魂の真骨頂だった。足を引きずりながらもマウンドに立ち続け、「頑張るのをやめた。最初は頑張り過ぎて制御し切れないところがあった。途中から緩く投げたり強く投げたり、メリハリを付けながら」投げた7回2失点の力投は、まさに職人芸。6月21日楽天戦以来となる今季8勝目を手にした床田の笑顔は、どんな金メダルよりも輝いて見えた。
そして極めつけは、6回2アウトで植田を遊ゴロに料理したナックルカーブだ。「10日の残留練習中『ちょっと投げてみようかな』と試したナックルカーブを、点差が開いた試合後半に選択した」なんて、まるで少年野球の延長のような自由度。「バリ良かったです。点を取ってくれたからこそ試せた」と語る床田の表情には、野球の純粋な楽しさが宿っていた。
次回対戦への希望と確信
大竹の屋外と屋内での成績差は歴然としており、野外では28勝2敗の防御率1.59だが、屋内では1勝8敗の防御率6.22と苦手にしている。マツダスタジアムという屋外球場での勝利は、決して偶然ではなかった。
最高球速145キロという、現代野球では決して速いとは言えない球速の大竹に対して、「モンテロは今年来たから苦手意識なく遅い球打てるやろ」というファンの分析は的中した。そして何より重要なのは、新井監督が「ずっとやられていたんでね。打者も悔しかったと思うし、みんないいスイングをしてくれた」と評価したように、選手たちの心に火が付いたことだ。
今回の勝利で学んだことは明確だ。大竹のチェンジアップは確かに厄介だが、所詮は球速80キロから120キロの範囲でしかない。中日の高橋宏斗のような150キロを超える速球とは根本的に違う。一度タイミングを掴めば、必ず攻略できる相手なのだ。
5回には小園の右前適時打、末包の2点適時2塁打で3点を追加し、大竹をKOした。この畳み掛けるような攻撃こそ、次回対戦での勝利への道筋を示している。緩急に惑わされず、甘いコースに来た球を確実に仕留める。それさえできれば、大竹なんて怖くない。
カープファンよ この勝利を糧に
チームは3位DeNAに1ゲーム差に迫った今、この大竹撃破の意味は計り知れない。長年にわたってカープを苦しめ続けた天敵を倒したことで、選手たちの自信は確実に高まった。特に8回に代打で登場した前川誠太が2点打を放って勝負強さを見せた場面は、若手の成長を物語る象徴的なシーンだった。
大竹の投球術は確かに巧妙だ。同じチェンジアップでも81キロから117キロまで使い分ける技術は、まさに職人の域に達している。それでもプロ野球選手なんだから、慣れれば必ず打てるはずなんだ。今回モンテロが証明してくれたように、苦手意識さえ取り払えば、あの緩いボールだって十分に攻略可能な相手でしかない。
次にカープと大竹が対戦する時、きっとまた違った展開が待っているだろう。でも今度は、われわれファンも選手たちも、もう恐れることはない。あのマツダスタジアムに響いた解放の雄叫びを胸に、堂々と立ち向かえばいいのだ。大竹の緩急なんて、もはやカープにとって謎でも何でもない。ただの攻略済みの低速ピッチャーでしかないのだから。